1975年 新潟の旅 23 碓氷峠の補機 EF63 その1
5月5日から続けて参りました「1975年 新潟の旅」シリーズ、最後のトピックは碓氷峠の補機EF63です。
2013年5月11日の記事で書きましたように、1963年の碓氷新線の開通に向けてEF62とEF63の試作機が用意され、試運転に投入されました。
軽井沢方に1号機を繫いだEF63の重連 軽井沢
主電動機はEF70形交流電気機関車に続きMT52形直流直巻電動機が直流電気機関車として初搭載されました。制御方式は従来の単位スイッチ方式に代わる電動カム軸方式のCS16形自動進段式抵抗制御器とCS17形バーニア制御器が搭載されました。ノッチを細分化することでトルク変動を小さくし、空転防止に貢献させ、他にCS18形電動カム軸式転換制御器も搭載されました。
台車はEF62形の3軸ボギー台車(軸配置Co - Co)と異なり2軸ボギー台車(軸配置Bo - Bo - Bo)としましたが、電磁吸着ブレーキなどの特殊装置を持つことから本形式専用設計としました。DT125形両端用台車は国鉄ED72形電気機関車のDT119A形をベースとした逆ハリンク機構を採用。DT126形中間用台車もDT125形同様の機能を備えていますが、正確な速度検知用に直径115mmの遊輪を装備しました。
急勾配を通過する列車の補助という運転特性上、安全性の確保や通常は行わない電車との連結運転を行うために数多くの特殊装備があります。これらの装備品のため運転整備重量は、EF60形以降の新性能直流電気機関車では最大となる108tとされました。また軽井沢方台車の軸重も国鉄車両としては最大の19tとなりました。ちなみに勾配上での軸重移動を考慮したため中間台車は18t、横川方台車は17tとアンバランスな構造を採用しました。
<急勾配運転に備えた各種保安装置>
抑速ブレーキ
主電動機の電流が抵抗器に流れ発電ブレーキとなるため屋根上にある抵抗器から熱が発生します。急勾配区間の抑速ブレーキとして電機子転換方式の発電ブレーキを装備している。急勾配区間で発電ブレーキを使用すると、抵抗器から大量の熱を発するため、側面の通風フィルターが他の機関車より大きいのが特徴です。その後、電機子転換方式による発電ブレーキはEF64形にも採用されました。
電磁吸着ブレーキ(レールブレーキ)
急勾配上で停車する際、電磁石をレールに接触させ、電気を流すことにより、磁力による強い力で機関車を停止させる。このブレーキは自動車で用いられている駐車用ブレーキのような物であり、通常の減速用には用いられません。
空気ブレーキ装置
空気ブレーキ装置はEF58形やEF60形などの多くの機関車に搭載実績のあるEL14AS形自動空気ブレーキ装置を採用しました。本線上で停電した場合には、車両に搭載された大容量蓄電池で空気圧縮機(CP)の動作も可能です。
その他のブレーキ設備
空気ブレーキをかけた後、空気が漏れてもブレーキが緩まないようにする機械式ブレーキゆるめ防止装置を備えました(カム式ブレーキ装置)。また、転動時に主電動機の回路を短絡させ、非常に強力な電気ブレーキを作動させる「電機子短絡スイッチ」と呼ばれる非常スイッチも装備しましたが、これは主電動機を破壊するため、逸走を停止させる方法が他にない場合の最終手段として用いられます。
過速度検知装置 (OSR)
下り勾配通過時、速度を正確に測定し、速度が出過ぎると警報を鳴らしたり、非常ブレーキをかけたりする装置。
<電車と連結運転のための装備>
双頭型両用連結器
電車の密着連結器にも対応できるよう、双頭連結器を装備しました。連結運転時に機関車から電車の基礎ブレーキ装置を操作できるように、機関車のブレーキ管(BP)が連結器を介して電車のブレーキ管に接続されました。
EF63補機同士の連結部 軽井沢方の連結器は電車との連結を考慮した双頭タイプ
各種ジャンパ連結器
多様な形式と連結する必要から対応する多様なジャンパ連結器を装備しました。この中には電車・気動車列車の運転士との連絡回線が含まれました。 EF63の機関士は常に麓(横川)側に乗務しているため下り(軽井沢行)列車は信号と前方の安全確認を押し上げ対象列車の運転士が担当するためです。
協調運転装置
EF63と同調して力行・抑速動作ができる協調運転機能を追設した電車(169系・189系・489系)が開発され、協調運転時の最大編成両数は12両に増強されました。電車側にも設置されたKE70形ジャンパ連結器を通じて力行・ブレーキなどの各種制御をEF63から行うとともに機関士と連絡が可能となった。EF63側では編成中全車協調運転対応車であることの確認・電動車の状態・横軽スイッチ(協調運転設定スイッチ)の確認が可能となりました。力行指令時には自車の主電動機を駆動させ、ブレーキ指令時には自車の発電ブレーキによる抑速ブレーキを使用し必要な力の一部を負担します。 電車側ではブレーキハンドルの抜き取りとマスコンキーのOFFをする必要がありました。万が一電車側でマスコンスイッチを投入した場合には制御信号が交錯するため非常ブレーキが作用するようになっており、非常制動操作は運転席に増設された車掌弁によるもののみとしました。
定格速度の違いから、電車側では並列段を使わず特急車両では直列制御3段目以降最終段まで常に70%、169系で直列最終段以降50%までの弱界磁制御を行い同調させました。
列車無線
EF62形と協調運転を行う関係上,EF63には当初から150kHz帯の誘導無線が装備されていましたが、この方式はトンネル区間を中心に雑音が問題となり、また横川機関区や駅との連絡を可能とするためEF63形とEF62形には1975年から沿線に敷設した専用の漏洩同軸ケーブルを使うUHF400MHz帯の列車無線を装備、第2エンド運転室側面と屋上にアンテナを設置しました。この無線には1980年代に入り異常時に他列車への連絡を可能とする防護無線の機能を追加、1990年以降は山岳区間での通信を確実にするために軽井沢側は運転席前に、横川側は助手席前に通称C'アンテナと呼ばれる八木アンテナ製のコーリニアアレイアンテナが取り付けられました。
先行試作機 1号機について
製造:東芝
予算:昭和36年度第3次債務
製造年:1962年
廃車年:1986年(余剰廃車)
試験の結果、量産機から内部機器配置を変更したほか、中間台車の外側に装備されていた速度検知用遊輪が分岐器通過時に浮き上がるといった不具合を起こしたことから1963年に各部を量産機に合わせる統一改造を実施しました。それ以降にも連結器交換などの追加改造が行われています。外観上は前面窓上部のツララ切りが未装備でスカートや屋上機器の形状なども量産機とは異なっているほか、1972年に非常用蓄電池搬入口が量産車と同一形状に改造されるまでは側面通風フィルターの形状と配置が両側面とも左右対称でした。
退役後は登場時の塗色に戻されて碓氷峠鉄道文化村で展示される1号機 2005/8/16
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