東京総合車両センター公開 その3 首都圏直流電車の主電動機 part1 MT15
2015年8月22日の東京総合車輌センターの公開、今回は工場内に展示されていた国鉄時代からの直流電車の主電動機について触れてみようと思います。登場する面々は
MT-15, MT-46, MT-54, MT-54B, MT-55, MT-57, MT-60, MT-61B -61C, MT-63, MT-68 -68A, MT-73, MT-75 などです。
主電動機の形を上げて、搭載形式や出力がすぐに思い浮ぶのはかなりの鉄道マニアと思います。私はMT-46やMT-55は分かりますが、それ以外は全く分かりませんでした。
イベントではこのように主電動機の形式と使用車両が紹介されていました。
何回かに分けてになりますが、今回はまずMT-15から行きます。
省形式MTで始まる主電動機の最初はMT-4だそうです。これは鉄道院、鉄道省の直流用電車デハ33500系に搭載されたゼネラル・エレクトリック社製GE-244A(端子電圧675V*時、定格出力85kW、定格回転数890rpm)のモーターでした。
*端子電圧675Vは戦前の鉄道省時代は送電時のロスで1割程度電圧降下し、架線電圧は直流1500Vが1350Vになると見込んで、モーターを2個直列に繋いだ場合、端子電圧は675V程度と判断したことによるそうです。戦後は変電所から送り出す段階で1650V程度まで昇圧し、架線から集電する際に1500Vになるように変更されたため、端子電圧は750Vで設計されるようになったそうです。
製造は1921年(大正10年)から1922年度にかけてでデハ23500形、サロ33250形、デハ33500形、サハ33750形から構成されており、中央線・山手線用600V(デハ23500形)もしくは京浜線用600V/1200V(1500V)(デハ33500形)でした。制御器はゼネラル・エレクトリックC-36Dでした。
このMT-4電動機西武鉄道の311系、371系にも使用されていました。
1923年(大正12年)9月1日の関東大震災以降、東京周辺の省電では輸送力アップのため、車体を大型化したデハ63100系が量産されました。このとき主電動機は”端子電圧675V時の定格出力100kW/635rpm”という条件で電機メーカーが競作し、
日立製作所RM-257(省形式MT7:368基)
芝浦製作所SE-114(同MT9:112基)
東洋電機製造TDK-502(同MT10:220基)
メトロポリタン=ヴィッカースA-1506(同MT12:64基)
三菱電機MB-94A(同MT13:8基)
奥村製作所MD-27(同MT14:4基) が納入されました。
一方、主制御器はゼネラル・エレクトリック社製Mコントロールと互換性のある電空カム軸式制御器「PC制御器」のライセンス生産品・芝浦製作所RPC-101(省形式CS1)が採用されました。運転台の主幹制御器は、従来から用いられてきたGE・C36をもとにして国産制式化されたMC1が採用され、以後旧型国電の標準的な主幹制御器として長く用いられました。
南武支線のクモハ11 尻手
木製車体の車輌は構造的に脆弱であり、加減速で車体の歪みが大きく、事故の際には容易に粉砕されること、さらに震災後の復興で木材の価格が高騰し、良質な材料が入手困難になっていたことから、鉄道省は客車に先んじて木製車体の電車の製造を中止し、鋼製車体に切り替えることにしました。その結果、1926年から登場したのが後に国鉄30系としてくくられる17m級3扉ロングシートの旧形電車群です。
形式は 1928年10月の形式称号改正で改められましたが
デハ73200形 > モハ30形(30001 - 30205)
サロ73100形 > サロ35形(35001 - 35008)
サハ73500形 > サハ36形(36001 - 36045) です。
このときに主電動機も”端子電圧675V時1時間定格出力100kW、定格回転数653rpm”と言う条件で鉄道省と各メーカ間で共同設計が行われ、それまで各メーカが競作した製品の中で使用実績と購入数から日立製作所のMT-7を基本として、他社機種のメリットを盛り込む形でMT-15が開発されました。
新鶴見機関区で見かけたクモハ12013 1975年
将来の地方線区への転用も考慮し、勾配線区での連続使用にも耐えられるように熱容量も大きくとり、フレームも強度重視で頑丈に作ってあり、重量、容積が大きく、定格回転数は低めでも信頼性と汎用性が高く、性能に余裕のあるモーターとなりました。
国鉄では
1930年 横須賀線向けモハ32形で70%弱め界磁付加の MT15A
改良版 MT15B
初の20m車 40系に搭載 MT15C
1933年 界磁率58%の42系 MT15D などの発展をしました。
制御器は電磁空気カム軸式のCS5形で、ゼネラル・エレクトリック(GE)社製電空カム軸式「PC制御器」のライセンス生産品・芝浦製作所RPC-101(省形式CS1)の改良による上位互換型でした。主幹制御器はGE社製C36形マスターコントローラの改良国産化品であるMC1形が、在来木造車から引き続いて搭載されました。
西武では351系の一部や451系、551系、411系にMT15E搭載の車両がありました。
かつて首都圏ではよく見かけたクモニ13 荷物電車 1987/12 鶯谷
1953年の車両形式称号改正で車体長17m級の電車は、形式10 - 29に設定されたため、その時点で残存していた車輌はその出自に関わりなく、
中間電動車 モハ10形(2代)、
片運転台制御電動車 モハ11形、
両運転台の制御電動車 モハ12形(改番時点で本系列には存在せず)、
制御車 クハ16形、
付随車 サハ17形 に統合されました。
配給電車 クル29+クモル24 田町
その後、両運転台化改造で、クモハ12や事業用車(牽引車、配給車、救援車)への改造でしばらく生き残りました。
鉄道省がMT15を省制化した1930年代中期頃、関西の私鉄、新京阪鉄道・阪和電気鉄道・参宮急行電鉄・阪神急行電鉄などは標準軌間路線が多いこともあり、すでに端子電圧750V時1時間定格出力150kWの東洋電機製造TDK-527Aが新京阪鉄道P-6形用として実用化され、その後も、国鉄と同じ狭軌用150kW級電動機では東洋電機製造TDK-529A(端子電圧750V)と日立製作所HS-262AR(端子電圧600V)が、それぞれ阪和電気鉄道モタ300・モヨ100形と南海鉄道電9形用として1929年に完成しました。1933年には、戦前の電車用主電動機最大出力を記録する端子電圧750V時1時間定格出力170kW級の芝浦製作所SE-146が大阪市電気局100形用として完成しています。
鉄道省、国鉄の吊り掛けモーターはこの後、51系モハ54形でMT30 (端子電圧675V,128kW)が登場、63系でMT40(電機子軸受けをコロ軸受けに、端子電圧750V,140kW)が登場しました。
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コメント
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B767-281様おはようございます。吊り掛けのひびき、懐かしいです。従兄弟が南武線の武蔵新城にいたので、73形にはよくお世話になりました。こちらはMT40でしたね。MT46では、重量が40の三分の一で回転数が2倍〈確かこんな数値〉画期的な進歩が分かります。部品のお話まで広がり楽しみは増します。今後共宜しくお願い申し上げます。
投稿: 細井忠邦 | 2015年10月19日 (月) 06時58分
細井忠邦さま、こんばんは。
東京では、南武線、横浜線あたりが比較的遅くまで73系が活躍していましたね。わたしもこれらの線区で活躍するクモハ73やクハ79の姿は記録しています。
今回、昼間に追記したのですが、吊り掛けモーターの歴史を追ってみると関西の私鉄は如何に強力モーターを早くから搭載していたかも分かりますね。一方で、赤電時代の西武はその逆にMT15を長く愛用していたこともわかりました。
投稿: B767-281(クハ415-1901) | 2015年10月19日 (月) 22時30分
こんにちは~。モモパパです。
僕。
主電動機の知識はさっぱりです。
でもチョコレート色に塗られた戦前から終戦直後の車輌は大好きです。
当時はゲタ電と呼ばれてたとか。
南部支線の車輌も懐かしいですけど鶴見線の大川支線を走ってた車輌には乗ったことがありますよ。
かなり晩年まで活躍してましたから。
単行で吊り掛けモーターを唸らせて走る姿がとても好きでした。
今じゃ吊り掛けモーターの車輌も無くなってしまいましたね。
投稿: モモのパパ | 2015年10月21日 (水) 01時18分
モモのパパさま、おはようございます。
私もいろいろな電車を紹介しているうちにそういえばモーターはどうなっているのだろうと思い出し、さらにこのイベントで歴代のモーターの紹介があったもので、今回の記事にしました。
モータから電車の系列の変化を見直すというのも何か面白そうですね。
投稿: B767-281(クハ415-1901) | 2015年10月21日 (水) 05時24分
よく調査勉強に驚きました。この文面から当時の国鉄事情がよくわかりました。
投稿: 田中 耕作 | 2019年10月14日 (月) 12時01分
田中 耕作さま、はじめまして。
コメントありがとうございます。
電車のモーターの歴史というのも調べてみると結構面白いですね。特に昔国鉄で使われていたものが私鉄に払い下げられて第二の人生を送るところなども興味が尽きません。
投稿: B767-281(クハ415-1901) | 2019年10月14日 (月) 14時08分