ANAの787が路線就航した約1年後の2013年1月、ボストンでのJAL機の火災発生、さらに宇部山口空港から羽田に向かっていたANA機の発煙による緊急着陸はいずれもリチウムイオン電池の過充電、もしくは過放電による熱暴走、発火と推測され、全世界で運航停止措置が執られました。
世界中でこの時点で就航していた787は8社の50機でした。またボーイング社は787の納入を一時停止することにしました。
8社とその機数は
ANA 17機
JAL 7機
エア・インディア 6機
ユナイテド航空 6機
カタール航空 5機
エチオピア航空 4機
ラン航空 3機
LOTポーランド航空 2機 でした。
アメリカ合衆国連邦航空局(FAA: Federal Aviation Administration)が耐空性改善命令(AD: Airworthiness Directives)を出し、大型旅客機が全世界で運航停止になるのは1979年にマグダネル・ダグラスDC-10のパイロン整備事故以来のことでした。
JAL機ボストン事故では大型バッテリーケース内8つのセルのうち、6番目のセルで内部ショートが起こり、大電流が発生、他のセルも連鎖的に異常な高温となる「熱暴走」が発生したためと指摘されており、内部ショートは電解液が低温でリチウムイオンが金属となって析出、あるいは製造過程での小さな金属片が混入し、+と-を繋いだためではないかと推測されましたが、バッテリーの損傷が著しいため、原因は特定出来ていません。
リチウムイオンバッテリーに続いて問題になったのがJAL機に装備されているGEnxエンジンの氷晶アイシング問題でした。
2014/8/2 NRT JA821J Boeing 787-8 cn34831 ln20
2013年11月23日、ボーイング社はGE社のGEnxエンジンを搭載した787と747-8を運航する航空会社に対してエンジンの高圧圧縮機が氷晶で破損し、推力が低下する恐れがあるとの警告を発しました。
2013年7月31日、ロシアの航空貨物会社エアブリッジ・カーゴの747-8F(GEnx-2B67エンジン装備)が香港国際空港着陸のため降下中にエンジンの推力が低下したため、2基を停止して着陸、着氷が原因とわかり、3基の高圧コンプレッサーに破損が見いだされました。ロシア連邦航空局からの安全勧告を受け、ボーイング社は787でGEnx-1Bエンジンを採用している航空会社に対して飛行規程の改定し、「高度30,000ft以上の雲中を飛行する際、飛行経路上に積乱雲などの活発な雲域がある場合、その周囲約90km以内を飛行することを禁止する」との通知が出されました。
高高度で空気中に浮遊する氷晶をエンジンのファンが吸い込み、内部の高温のステーターベーンなどの表面で溶け、水膜が形成され、水膜がさらに氷晶を補足し、大きくなった後に剥離、これが圧縮機に吸い込まれると損傷を与え、エンジンのサージング、ストールを起こし、燃焼室まで至るとエンジン停止が起こるもので、エンジンの防氷システムでは解決できない問題のようです。
JALはこの問題に対処するために787で運航していた赤道付近の積乱雲が多く発生する「熱帯収束帯」を通過する路線を767や777に振り替えました。
またGE社はエンジン内部の防除氷システムのソフトウエアを変更し、高圧圧縮機の前方を氷塊が通過するのを検知して防氷システムが作動するようにしました。
2016年1月29日、JAL17便(JA822J)がバンクーバーを離陸し、成田まで140kmの高度20000ftで右エンジンのファンブレードに氷が付着し、異常振動が発生、右エンジンを停止し、左エンジンのみで着陸となりました。この機体は燃費性能の向上を目指してエンジンの細かい改良を施しており、Engine Performance Improvement Program2の状態の右エンジンに着氷が発生、PIP-1状態の左エンジンは正常でという皮肉な結果になりました。
ANAの787はロールスロイス社製Trent1000エンジンなので氷晶アイシング問題で悩ませられることはありませんでしたが、Trent1000エンジンの設計に関わる中圧タービンブレードの問題で悩ませられることになりました。
2014/7/22 NRT JA807A cn34508 ln41
2016年2月22日、クアラルンプール発成田行きNH816便(JA804Aの右エンジン)と3月3日、ハノイ発羽田行き(JA807Aの右エンジン)さらに8月20日、羽田発宮崎行きNH609便(JA825Aの右エンジン) において中圧タービンブレードが硫化腐食で破断するというトラブルが発生しました。いずれもパイロットが手動でエンジンを停止し、出発空港へ緊急着陸しました。
ANAはこれらの事実を8月25日に公表し、26日から31日まで、787の運航する国内線を18便欠航としました。
タービンブレードは1500~1600度の燃焼ガスが吹き付けられ、ニッケル基耐熱合金の金属をその温度から守るために冷却空気が流され、空気の膜で保護されています(関連記事)。
タービンの金属に硫黄が接触し、高温状態になると金属が硫黄(硫黄と酸素はよく似た挙動を示す元素ですから、鉄が錆びるのと似た現象と考えられます)と化学反応し、腐食が起き破断に至るというもので、ロールスロイス社の見解ではブレードのコーティングの設計に問題があったと言うことです。
2017/5/14 HND JA825A cn34516 ln 148
トラブルの起こったエンジンの使用期間は2.2年から2.7年でエンジン早期交換で対処することとなり、
国際線 飛行回数 1250~1450回 使用期間 1.5年~2.5年
国内線 4200~4400回 同じ
となりました。
硫化腐食のトラブルは777に装備されたPW4000エンジンでも2005年頃に問題(関連記事)となっており、PW4000の場合は製造工程でのミスト判断されましたが、今回は設計段階での問題なので耐硫化腐食コーティングを改善したタービンの供給が待たれ、2017年1月27日から、改良型タービンブレードの供給が開始され、-8 36機、-9 21機の全機分交換は2019年度末までかかる予定だそうです(関連記事)。

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