2023年 北九州旅行 その1 関門鉄道トンネル(山陽本線)
本州西端の山口県下関市と九州北端の福岡県北九州市の間には日本海・響灘と瀬戸内海・周防灘を結ぶ関門海峡があり、海峡の幅は最狭部の早鞆の瀬戸で約600mとなっています。
2016/10/15 早鞆の瀬戸に架かる関門橋(九州側から)
2016/10/15 早鞆の瀬戸に設置されている門司埼灯台の説明板
本州と九州を結ぶルートとして国道2号の関門トンネル、山陽新幹線の新関門トンネル、関門自動車道の関門橋はこの早鞆の瀬戸付近で海峡を越えているのに対し、山陽本線の関門トンネルだけが、彦島と大里間の大瀬戸にあります。その理由は大瀬戸の方が水深が浅く、高架の下関駅からアプローチする際の勾配を緩く設計することが可能だったこと、また既存の鉄道路線(山陽鉄道が敷設・開業した馬関(→下関)駅、初代九州鉄道が敷設した大里駅)との接続の関係を考慮したためです。
2004/10/17 門司港側の船着き場
今でも下関の唐戸と北九州の門司港を結ぶ航路は関門汽船によって営業されており、航行時間は5分、料金は大人片道400円です。
トンネルが掘られる前は旅客は航路、貨物は埠頭に引きこんだ貨物線に貨車を入れ、貨物を引き出して艀に載せ替え、対岸で逆の作業をする方式から始まり、1911年3月1日から貨車ごと船に乗せる貨車航送が始まりました。旅客は門司(今の門司港付近に接岸する関門航路に対して貨物は小森江付近に発着するため関森航路と呼ばれていました。
旅客にとっても貨物にとっても船に乗り換えるのは不便であるため、海峡に橋を架ける案、トンネルを掘る案が検討され、それぞれ調査が行われました。予算的にはトンネルの方が少額であったこと、そして他国から攻撃を受けにくいことでトンネルを掘る方向で行くことになりましたが、1919年当時は第一次世界大戦後の物価高騰で予算が膨れ上がったこと、1923年には関東大震災が発生し、その復興で予算が削減されたことで計画は延び延びになりました。当時の鉄道省は1925年に検討を再開しましたが、1929年には昭和大恐慌が起こり、再び予算が削減されました。1931年には関門間の貨車航送は激増し、1935年になって漸く着工予算が承認されました。
工事の施工は両端の取り付けトンネルに関しては開削工法が採られ、下関側が間組、門司側が大林組に請負され、海底部分は鉄道省直轄で担当となりました。複線トンネルにした場合、断面積が大きくなり海底のより深い場所を通ることから、トンネル総延長が長くなり、既存路線への取り付けに影響が出ること、施工自体、単線トンネルの方が容易であること、万が一列車脱線事故が発生した場合、上下線ともに通過不可能になる事態が予測されること、当面の輸送力は単線トンネルで十分であることなどから、まず下り線トンネルの工事が1936年9月19日に着工されました。地質調査の結果、下関側からは普通工法、門司側はシールド工法、圧気工法、潜函工法が採用され、1942年3月27日に下り線トンネルが貫通しました。同年7月1日には貨物列車の運転開始でトンネル開業、11月15日には旅客列車の運転も開始となりました。
ミッドウエイ海戦の惨敗など戦局の悪化(といっても国民には知らされてなかった)などから軍部は九州の石炭を早く本州に輸送すべきと主張し、上り線の工事着工、開通が急がれ、1944年8月8日には上り線も開業となりました。
2023/5/31 門司駅 5,6番線ホームに設置されている関門トンネルに関する説明板
本州と九州を関門トンネルを通過する旅客列車が415系1500番台だけとなってしまった現在、関門トンネルの重要性が忘れられるのを憂慮してのことなのか、門司駅の5,6番線ホームには素晴らしい関門トンネルに関する説明板が設置されていました。あまりの詳しさに時間を忘れて読みふけってしまい、列車に乗り損ねることがないか心配です(笑)。
関門トンネルは上り下り単線トンネル2本から構成されており、下り線トンネルは全長3,614.04メートル、上り線トンネルは全長3,604.63メートルとなっています。開通は下り線が1942年7月1日、上り線が1944年8月8日で最深部は-36.39 m(下り線)、-38.4 m(上り線)、勾配は当時の機関車の牽引能力から20‰(下り線)、25‰(上り線)とされました。 2023/5/31 関門トンネル門司側抗口から顔を出したEH500牽引貨物列車(67号機牽引、2075レ)
小森江方向の側線に停まっているのはこの3月のダイヤ改正で運用を外れた415系鋼製車 2023/5/31 単機重連762レ 単線運用のため、下り線を通り、下関・幡生操車場に向かうEH500-66/65機重連
2023/5/31 門司駅上り線出発信号機
関門トンネルの単線運用は日常的に行われている関係で、門司駅構内の出発信号機をよく見ると、鹿上:鹿児島本線上り(門司港方面)の他、山上、山下は関門トンネルの上り線、下り線通過を意味していることが分かります。 2023/5/31 門司
旅客線の交直切換えのためのデッドセクションはトンネルを抜けて、ホームとの間にあり、その間に415系の前照灯が片目になるのが特徴的です。
貨物線のデッドセクションは ホームを過ぎて北九州貨物ターミナルに向かって下る途中にあります。これは万が一、デッドセクションでトラブルが発生した際に長大編成の貨物列車がトンネル内に逆走するのを防ぐためと思われます。
山陽本線の神戸からの公式距離は534.4km、鹿児島本線門司港起点から5.5kmですから、山陽本線の距離表示がちょっと違いますが?
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B767−281様 こんばんは。九州旅行お疲れ様でした。夜行バスとは体力があるのですね。私はまだ使ったことがありません。以前ならあさかぜを奢って行くのですが。夜行列車の衰退は悲しいです。今でも特別な列車でなくても商売になりそうと思いますが。さて画像を拝見して引退した車両の留置されている姿は悲しいです。その昔南武線を引退した72、73形が中原電車区や武蔵溝ノ口駅のい電流線に留置されていたのを思い出しました。夜年並みとはいえ415系の引退は残念です。
投稿: 細井忠邦 | 2023年6月 6日 (火) 21時32分
細井忠邦さま、おはようございます。
私も九州までの夜行バスは3度くらい経験していますが、高速道路のおかげで昔の寝台特急並みの時間で行けると感じています。今回は往路よりも復路の方にとんでもない体力を使わされた気分です。結果的には新幹線が遅れたために乗車券分だけで帰還できましたが。
415系鋼製車の問題、果たして1500番台の寿命が来たとき、関門接続はどうするのかという問題があります。最近、電化区間を敢えて非電化にし気動車を走らす動きもありますが、もしかして旅客用にはDENCHAを使うのかなどとも考えています。
投稿: B767-281(クハ415-1901) | 2023年6月 7日 (水) 04時35分